私は絵かきを夢見ながら、絵と全く関係ない、環境問題を研究する大学に進む…
そんな回り道をしつつ「絵を描く仕事をする」という夢を叶えました。
- 変わったルートを歩んだイラストレーターへの道ですが、ひとつの体験談としてお楽しみ下さい。
イラストレーターにとって、絵のスキルは大切です。
でも一方で、絵のスキルだけで、仕事を軌道に乗せていくのも難しい…という現実もあります。
当時手に入れたものは、10年を超えるイラストレーターの活動でで、想像以上に役立つものでした。
それは、こんな3つの事です。
①本を読む習慣
②ものの見方・視点
③人とのつながり
※私が芸術ではない分野へ進んだ理由は、こちらのお話もどうぞ。
①【高校生編】美術の学校で、画力以上に得たもの
②【進路決め編】絵描き志望が芸術大学以外に進んだ話
1、イラストの仕事に活きる、本を読む習慣
まず手に入れたものの一つ目は、本を読む習慣。
高校生のときは、デッサンや絵に明け暮れてたこともあり、読んで月に1~2冊。
一転して大学時代は、論文の参考文献、講義やゼミの予習にと、とにかく本漬けでした。
また「スゴイ教授」との出会いもきっかけ。
教授は、知識の裾野がひろく、かつ深い考察をお持ちの方でした。
どんな分野についての問いかけをしても、深い話をしてくださり、驚いたのを覚えています。
- すごい…(ポカーン) 一体どうしたら視野をこんなに広く・深くできるの?
教授は、毎日大量の国内外の新聞・機関紙・書籍・論文、情報に触れ、それをデータベース化されていました。
その教授にはデータベース作りの入力のアルバイトをさせてもらえたのも、良い経験に。
- カタカタカタ…(入力しながら)
すごい量…すごい量だ…。(めまい)
- 教養がものすごい人は、物事をこうして掘り下げていくのか…
プロの研究者が、知識を吸収し、考えを掘り下げていく様を、間近で見ることができた経験でした。
自分の歩んできた人生とは異世界で、カルチャーショックだったのと同事に、その姿はかっこよく見えたのです。
「知識を掘り下げるには、まずたくさん知ること。」
そんな姿が脳内にインストールされたのか、気づけば私も大量の本にあたるようになりました。
1つ知れば、また1つ知りたくなり、無限の知識の沼に「うわあああ」と吸い込まれていくような日々。
大学まで往復4時間かけて通学していたのもあり、待ち時間はとにかく読書。
あれよあれよと、好奇心の赴くまま年300冊くらいは、読むようになっていました。
本の読み方が、身についた
300冊といっても、全ての本を1ページ目から最後まで読んでいた訳ではなくて、
その時々の「自分の疑問」の答えやヒントを探しつつ、ガツガツ読む。
といった、「読む」というより「使う」という表現が近い読書法でした。
そんな読書のスタイルが身についたのは、社会の問題を扱った学科に進んで、研究した経験のおかげかもしれません。
「ジャンジャン本を読む暮らし」というものが、生活にインスト-ルされた事。
卒業して10年以上経ちますが、「勉強しよう!」と意気込むでもなく、暮らしの一部として、絵のスキマ時間に本を読んでいます。
- どっちかっていうと、読書のスキマ時間に絵を描いてないか!?
えっと…そうかも!(^o^)
そんなわけで、生物学、脳科学、心理学…色んな分野の本を、気の赴くまま読む暮らしを送っています。
私の場合、科学を扱った文献が好きですが、本で得た知識は、デザインの提案や絵のお仕事に活かせるものもたくさんあります。
ほかにも、普段から本を読んでると…
・何か絵の依頼があった時に、ものごとを調べるスピードが早くなる。
・モチーフを描写する時に力となるその分野のベースの知識、観察力。
・色んな考え方や知識にふれることで、課題を洞察する力が磨かれる。
など、いい事がたくさんありますので、絵を仕事にされる方にも、読書は心強い友人のような存在になってくれるように感じています。
2、デザインで大切な「ものの見方」
次に、絵のお仕事に活きているスキルとして大きなものはものの見方です。
わたしは、ちいさな頃から動物が好きだったことから、「動物保護についても教えてもらえるかもしれない」と環境社会学を専攻しました。
そこでの講義を、環境に良い生き方を教えてもらえる授業…とイメージしていたのですがそうではなかったのです。
- そもそも、環境によいって何?
そう問いかけるような学問でした。
「ペットボトルをリサイクルすれば、エコである」というよく聞くフレーズ。
高校生の頃は「常識」「正解」だと思ってたのですが、実は一つの考え方にすぎないのかもしれません。
「なぜ?」「誰にとって?」「エネルギー的には?」「エコとは?」
「もっと良くするには、どうしたらいい?」
どんな課題にも、たくさんの切り口と、たくさんの答えがあります。
- 学ぶ事って、答えにたどりつくための「よい質問」を育てることなんだ。
- 正解を暗記することじゃなくて、自分らしい答え探すことなんだ。
そう知ってから、講義や研究がさらに楽しくなりました。
問題への「考え方」に興味が湧いた
私にとって、大学で一番おもしろいと思えたのがこの「考え方」
温暖化、公害、リサイクル、動物保護、外来種…それぞれの問題に「視点」や「考え方」が、いろいろあるということ。
日常にある色んな問題を、すこし切り口を変えて、根本的なところから考える事。
それは、イラストレーターとして仕事をしていく上でかなり役立つスキルだったといえます。
10年以上仕事をしてわかったのは、お客様にとっての「よい仕事」とは、ただ頼まれた通りに絵を描く事ではありませんでした。
ゴールから逆算して、イラストを描く
「こうしたい」と思ってる課題に、そのためにはベストな方法はないかな?
問題をもぐら叩きせず、課題を解決に近づける、面白い切り口はないかな?
正論をぶつけるのではなく、デザインだからできる、人を笑顔にさせるアプローチはないかな?
- 大切なのは1つ1つの案件のゴールを、丁寧考えるプロセスでした。
全てのご依頼が、社会問題を解決する為のものではありませんが、どんなお仕事でも基本は同じ。
「〇〇さんを笑顔にしたい!」そんなシンプルなご依頼でも、「どんなアプローチがあるかな?」と考えるクセが身についたのは、大きな収穫でした。
アートだからできる事が、世の中にはある。
現場をみて、データを読み、自分なりに噛み砕き、ものごとの本質を探る。
その上で、問題への批判ではなくプラスの提案をすること。
4年間の環境や社会の問題を研究するなかで、その事の大切さを学びました。
大学や学会、市役所や警察署からご依頼を頂けることも多いです。
制作したポスター等が、読売や産経など、新聞に取り上げていただいたりがしたことも何度もありました。
それは「絵のスキル」や「ビジュアル的な美しさ」からではなく、「切り口」や「アプローチ」が面白いと思っていただけたから。
本来、人は、正論だけでは動けないもの。
なにより、私は小心者ゆえ、人の笑顔が大好き。
ほっとすること、笑えることが、本当に価値のあることだと思っています。
世の中にあるどんな問題も、「遊び心」や「笑顔」が鍵になる。
アートだから出来ることが、きっとあるはず。
これは、卒業して10年たった今も、私のものづくりの根っこになっています。
イラストから少し離れた場所に身を置くこと、そこでしか見えないもの・知りえないものが目に入ります。
ものの見方や発想力は、絵を描くスキルと同じくらい重要なもの。
視野が広がること、絵の仕事にも奥行きや豊かさが生まれまていくのではないかと思うのです。
長い目で見ると、若く感受性が豊かた時期に、世の中の色んな問題を知る事。
それがジワジワと、人生かけて効いてくるんじゃないかなと思います。
3。絵と異なる環境で”つながり”が生まれた
最後に、手に入れたもの中で、なにより助けられているのは「人とのつながり」です。
二回生のときに、はじめた絵のお仕事。
環境や防犯や教育…社会の問題を扱ったポスター等は、最初は半分ボランティアのようなお仕事も多かったです。
当時はとにかく、絵の仕事がもらえる事自体が嬉しくて、すべて120%の体当たりで挑みました。
その事がよかったのかもしれません。
- あのポスターつくったひと誰かな?紹介して下さい
こんな風に、仕事が次の仕事を呼んでくれるという嬉しい連鎖が生まれていました。
気がつけば学生業のかたわら、月に何件か抱えるようになり、卒業する頃には、就職せず独り立ちできると思える状態になっていました。
他の大学の自然系の学生サークル、
フィールドワークで知り合った方、
シンポジウムで出会った他大学の教授との出会い。
出会えてきた人、人、人…。
そのバトンをつなぐ手がかりになったのは、1つ1つの絵の仕事でした。
それは数珠つなぎのように、10年以上経った今も、現在のお仕事にも脈々とつながっています。
イラストの仕事に活かせる、スキル
今回は「イラストレータになるまで」シリーズその3【大学編】、
絵と違う世界に飛び込んだ環境で、身についたものの話でした。
①本を読む習慣
②ものの見方・視点
③人とのつながり
この3つは、卒業して10年たった今も、イラストの仕事に生きています。
- ここで身につけたものを、叶えたい絵の夢に、どうやったら活かせるかな?
絵の分野とは異なる環境でも、そんな視点をもって飛び込めば、ずっと活きるスキルを手に入れることはできます。
イラストに、自分のどんな能力を掛け算したいのか。
絵の進路や将来を考える時に、何か1つでも考えの材料になればと思います。
今回は、このあたりで