林明子さんの絵本の原画展「絵本のひきだし」に行ってきました。
林明子さんは、「はじめてのおつかい」や「こんとあき」で有名な絵本作家さん。
どちらも、私にとっては寝る前に母親に何度も何度も読んでもらった大好きな絵本です。
人は繊細さに愛しさを感じるのだと気づいた。
今回の展示で一番心に残ったのは、繊細さ。
林明子さんの描くこども、生き物…さらには背景の葉っぱや風景さえも、そのどれもが繊細です。
一秒後には動き出してそうな、生き生きした動き。
こどもの指先のぷにっとした感じ。
風でひらめくスカート。
笑い声が聞こえてくる、瑞々しい笑顔。
「こどもってこんな表情や、ポーズ、するする!」
ともすると見逃してしまう、なにげない仕草の数々。いつもの日常。ふつうの時間。
一瞬一瞬が、鮮やかに表現されています。
一瞬のしぐさが愛おしい
こどもや動物の表情の一瞬をとらえる感性。
一瞬の中に存在する愛しさを描き出す圧倒的な表現力。
そのどちらもが、なんて繊細なんだろう…と胸がギュッとなりました。
同時に、かわいいなぁ、いとしいなぁ、という何かを大切にしたくなるような感覚もフンワリとこみ上げてきます。
林明子さんの絵を見ていると、人が抱く「愛しい」という感情は、一瞬のしぐさの中に存在しているかもしれないと思いました。
しぐさには、その人の息遣いや、人となりが表れます。
そして一瞬の仕草に、今この瞬間に生きているとう事実が「ギュ」と詰まっているように感じたのです。
対象への優しい眼差しから、絵がうまれる
また、印象的だったのは林明子さんの、この言葉。
会場内での作品解説のボードに添えられていた言葉で、記憶してるだけで曖昧かもしれませんが、このような趣旨のことをおっしゃていました。
「こどものほっぺの”ぷに”っとした所が好きで、見てると描きたいなぁ、と思います」
「あっ そういうことで、いいんだ!」
絵について模索中の自分にとっては、頭をガーンと殴られたような気分でした。
絵を仕事にしてから、色々難しくややこしく「考える」ようになっていたのかもしれません。
「ほっぺのぷにっとした感じ」
絵を描く動機は、ふうわりとした愛情が出発なんだ…!
描きたい対象への
「ああ素敵だな」「かわいいなぁ」というシンプルな思いが大切なんだ。
むしろ、これくらいシンプルな思いだからこそ、心に響く絵に仕上がるんだ。
あれこれ難しく考えすぎず、もっとシンプルに素敵なものを表現していったほうがいいんだなぁ…!と思いました。
絵をこころざす原体験が、絵本でした。
私がいま絵の仕事をしていること。
思い起こせば、子供のとき母親に毎晩絵本を読んでもらったことがきっかけでした。
布団の中で母の声に耳を傾けながら、真剣に見上げた絵本。
絵を見た時に感じる、ギュッとくるような共感とドキドキ。
それは繊細な表現が生み出す、物語世界への愛しさにあったようです。
この展示をみて、「私は繊細なものを」描きたいんだと気づきました。
儚くて、一瞬で、温かい…。見た人のむねがちょっとギュッとなる。
深い話になりますが、自分が絵を描く意味を、もう一度見つけ直したような感覚です。
毎晩絵本を読んでもらって、絵を描く人になりたいと思った3歳くらいの自分。
絵の仕事をして13年目(なのに絶賛、絵をまだまだ模索中)の今の自分。
子供の頃大好きな絵本の世界にもう一度出会って、不思議と答え合わせができたように思います。
さいごに
ほんの少しだけでも、絵を見たあとは、人や動物への眼差しがあったかくなる。
繊細な絵は、人の心を芯からあたたかくする力強さがある。
絵はすごい。自分もいい作品を生み出してみたい。
愛しいものを大切に描いていきたい。
忘れかけていた大切なことを思い出させてくれる、ぬくもりに溢れた絵本展でした。