
本が好きです。
図鑑も、詩集も、エッセイも、物語も、科学の本も。
単調な毎日も、本があれば、たちまち彩り豊かなものになっていく。
そんな気がしてなりません。
この「読書」というものは、絵の表現力に関わっているのでは?と最近思うようになりました。
読書で磨かれるもの
絵のお仕事とは、どんな仕事か。
わたしはこう解釈しています。
「世の中の ありとあらゆる事を、目に見える形にして伝えるもの」
ときに図解だったり、
ときに気持ちや、感覚だったり、
ときに目に見えない概念だったり。
豊かな表現は、豊かなインプットがあってこそ。
読書は、絵の表現で大切な2つの力を豊かにしてくれます。
それは、1,描写力と、2,ものの見方。
テーマを絞った読書は、繊細な描写力。
ジャンルを超えて雑多に読む読書は、豊かなものの見方。
読書にはこの2つの力を豊かにする力があります。
1、読書と描写力
まず、すぐに効果が出る読書は、自分の好きなモチーフや世界を読み込んでいくこと。
気がつけば、つい描いてしまうモチーフや世界ってありますよね。
私の場合、小さな生き物・こども・小さな草花・星空。
好きなジャンルの本を深く詳しく読んでいくと、知識という強力なバックボーンが産まれます。
似たようなモチーフの微妙な違いに気づく繊細な観察眼、その違いを描き分ける力、独特のセンス、表現する力…。
モチーフの知識や背景を知ると、表現はより豊かに、鮮やかになります。
興味のある本を、ノージャンルで楽しむ
次に、ジャンルを問わない、ごちゃまぜ読書。
絵の仕事では、全く描いた事もないモチーフを依頼されることが多々あります。
この時、肝心なのが、頭のなかに何かしらの取っ掛かりがあるかどうか。
依頼が来た段階でも本や資料にあたるわけですが、このときに知識の杭があると、観察眼が磨かれ表現がより豊かになります。
知識の杭というのは、教育学者の親野智可等氏が提唱したコトバ。
川の流れに杭を打ち込むと、流れてきたものがひっかかります。
日々情報は流れていきますが、杭があることで、脳内に関連する情報がどんどん蓄積されていきます。
「これ本で読んだことあるな」という杭がなにかしらあれば、いざ仕事がきて資料に当たる時にさらに多くの情報が吸収できます。
ちなみに、この「知識の杭」という概念は、イラスト制作と関係のない育児関連の本で知りました。
絵の仕事をする自分にとっても、響く言葉が満載でした。
絵を描く方にももおすすめの本です。
読書の体験は、表現力のベースになる
リスの絵を描きたいから、リスの図鑑や生態学を読む。
そんなピンポイントな読み方と違い、その時の関心に任せた読書は、効果が現れるのゆっくりです。
私の場合、脳科学・経済学・社会学・生態学・遺伝子・心理学…
学生時代からこういった本が、無性に気になり、ついついよんできました。
こうした雑多な読書で磨かれるのは、オリジナルのものの見方。
自分が描くすべての作品は、すべて自分の中からしか生まれません。
自分がスカスカだと、スカスカなものしか生まれない。
なんでもOK、珠玉混合、ごちゃ混ぜの知識。
雑食に読書を楽しむからこそ生まれるジャンルの垣根を超えた多角的なモノの見方。
ベースとなる絵の世界観の構築・表現力にジワジワゆっくり効いてきます。
「どんな本でもOK」とはいっても、じゃあ具体的にどんな本を読んだらいいのでしょうか。
私なりの答えはシンプル。
「その瞬間、読みたい本が一番効果的な本」
絵かきにとって良い読書とは、吸収力の高い読書
そもそも、読書で大切なのは、どれだけ内容を吸収できるか
世間的にいくら評価されてようと、受賞作だろうと、売れ筋だろうと…
読んでいてまったく響かない本。
これはその人にとっての「良い本」とは言えません。
いち読者にとって、その本がどれだけ良書であるかは、どこまでいっても主観的なもの。
だからこそ、私は「良い本」をこう定義しています。
良い本=たくさん吸収できる本
おもしろいと感じ、心を動かされてこそ、自分の中に入ってきます。
本から吸収できたもの、自分の中に入った知識・情報・言葉・概念。
これらはすべて誰にも奪えない財産になります。
自分の引き出しを増やしてくれる本であるほど、「良い本」といえるのではないでしょうか。
ところでこの「良い本」というのは、不思議なことに日々変化するものだと最近思うようになりました。
「よい本」は毎日変化する
こう考えるようになったのは、同じ本を読んでも、タイミングによって良い本かそうでないかの評価が大きく違うことに気づいてから。
すごく心動かされた本を3年ぶりに読んでも、「ん?当たり前のことしか書いてないぞ?」と思ったり。
逆に学生の頃つまらないと思った本に、感銘をうけたりすることもあります。
子供時代、学生時代、社会人…人生のステージのスパンで考えると、成長したり状況が変わったりするんだから、言ってみれば当たり前かもしれません。
でも実は、ほんの一週間、なんなら1日のという短いサイクルの中でも同じ現象が起きているのかもしれないと思うようになりました。
朝起きてすぐか、寝る前か
体調はどうか、お疲れモードか、やる気いっぱいモードか、
満員電車の中か、家でのんびり読んでるのか、
天気はどうか、ご機嫌か、気分は落ちているのか、
いま何を望んでいるのか、何を解決したいのか
何をおもしろいと感じるか…何を知りたいか。
本と向き合う自分の心持ちや状況は、一瞬一瞬、違います。
自分がどんな文脈のなかで本と出会うかで、内容の楽しさ・吸収力は大きく変わります。
日々移り変わるバイオリズムに合った、その瞬間の「よい本」が存在するのだと気づきました。
その時の自分にとって面白いと思える何かがあるか。
絵かきの読書にとって、一番大切にしたいのは、読書をするときワクワクしているか、この1点につきます。
良い読書とは
本を片手に、絵の仕事を続けてきた12年間。
その中の読書を振り返ってみて「良い本」とは、瞬間・瞬間の出会いの中にあったと感じてます。
人生を通してみても二度と同じ文脈の中で、同じ言葉や知識には出会えないかもしれません。
その瞬間の自分でしか、吸収できない何かが、今読みたい本の中にある。
その時々、自分が吸収してきた「何か」はこれから続く絵描き人生を、基礎のところから支えて、彩り豊かなものにしてくれるはず。
楽しい読書・楽しいイラスト制作のお役に立てば幸いです