
イラストレーターへ絵を発注する時に、写真の資料を渡すことがありますよね。
このときに意外とよくわからないのが、イラストの資料に使う写真の著作権・肖像権。
- ん? でも、写真を そのまま使うわけじゃないよ?
- 絵にするんだからOKだよね?
さて、実際の所はどうなのでしょうか。
私は現在 作家に転身しましたが、商業イラストレーターを14年間経験してきました。
この記事では、イラスト資料の写真の著作権について、絵のお仕事の体験談をまじえながら、解説します。
参考写真にも著作権・肖像権がある
基本的に、イラストの資料となる写真には著作権があります。
人物写真ならモデルさんの肖像権も。
このため、雑誌の切り抜き、ネットから画像検索で集めた写真…。
- このとおりに描いてほしいな♪
とオーダー頂く場合もあるのですが、ご要望にお応えできないのです。
すみません…!
参考資料 NGケース
・形が丸写し、トレース・模写
・特定の写真を元にしている事が明らか
「資料を参考に」といっても…ここまですると写真を撮影した方への著作権の侵害になってしまうんですね。
リアルで正確性を求められるイラストは、資料なしに想像だけで描くのは不可能に近く、かといって資料通りに描いても著作権的にNGになることも。
実際のご依頼の現場でも、このバランスは結構難しいシーンです。
では、こんな時どうすればいいのでしょうか。
イラスト資料の著作権問題 こうすればOK
お客様が使用権を持ってない写真資料に関しては、このように対応させていただいてます。
トレースにならないよう参考にする。
実際のお仕事で一番多いのはこの方法です。
「全く同じように描く」ことはできないことをお客様にご理解頂いた上で…
・色味やニュアンスを伝えるのに使う
・参考にしつつ、構成や角度を変える
・複数の写真の複数のパーツを参考にする
1枚の資料をそのまま模写するのではなく、方向性を定めるための一つの素材として使うイメージです。
写真×イラスト化 参考ノウハウ
では、著作権に配慮する必要のある写真は、どのように参考にしているのか。具体的な方法を2つご紹介します。
①3Dにして回転
まず、私がよくしているのは、脳内でクルクルと3D回転させる方法です。
- このモチーフを、ちょっとずらして右斜め下15度あたりからみたら、どんな形になっているかな?
- グルっと裏側からみたら、どんな質感でどんな構造になってるんだろう?
②頭の中で再生ボタンを押す。
2つ目は、動かすこと。
人物やリスなど”生きてるモチーフ”の場合は、まさに脳内で動いてもらいます。
たとえば、
- 3秒後には、どんな動きをしているのかな?
手の角度、毛の動き、筋肉の動き。
資料となる元写真から、ほんのすこし時間をズラした場面を想像します。
映像の再生ボタンを押すイメージで、脳内に浮かんだ残像を即座にスケッチ。
こんなふうに写真の時間軸や角度をずらしていくと、アウトラインは重なりませんし、画面にオリジナリティもでてきます。
資料となる写真は脳内デッサンの為の材料…と言えるかもしれません。
ちなみに、この材料は1枚の写真ではなく、何枚かの写真というのもポイント。
1枚だけ見ると、どうしてもその1枚のイメージに強く引っ張られてしまうからです。
- なので、資料は1枚ではなくて、何枚か用意するのをオススメだよ♪。
何枚かの写真があれば、写っていない箇所も脳内で補完しながらデッサンしていく事ができるのです。
ここの話をもう少し詳しく知りたい方は、こちらの関連記事もどうぞ。
写真の著作者に連絡・使用許可を得ればOK
さて、まれなケースかもしれませんが、「どうしてもこの写真の通りに描いてほしい!」という時は、どうすればいいのでしょうか。
ズバリ、写真を撮影した方にOKを貰えれば問題ありません。
著作権の侵害とはそもそも、だれかの著作物を使う事自体がNGなのではなく、許可無く使うことがNGなのですね。
ただネットで拾った画像は、撮影者が分からないケースや、撮影者と連絡が取れたとしても、使用料の交渉に時間がかかるケースもあります。
つぎに、ネットでみつけてきた画像でも大丈夫なケースをみてみます。
ネットから保存した画像でもOKな場合
イラストレーターに全体の色合い・雰囲気やニュアンスを伝えたい。
こういった場合は資料からイメージをふくらませる為に参考にするので、ネット上の画像でも基本的に問題ありません。
絵を希望されるお客様が、どのような表現を求めているのか。
さらにこれから制作するイラストを通じて「伝えたいこと」は何なのか。
まだお客様の中でも言語化されていない微妙なニュアンス等を紐解いていくのに、具体的なビジュアルは大きなヒントにもなります。
写真で具体的なモチーフを指定するときは要注意
しかし、モチーフを詳細に描写する必要がある時は注意が必要です。
写真の被写体のカタチをリアルに描いていく事で、著作権の侵害になってしまうこともあるんですね。
そこで、写真から忠実に描写したい場合は、次の2つの方法がおすすめです。
- お客様自身で資料を撮影
- 商用利用可の写真サイトで探す
写真からのトレースも模写も、それ自体が問題になるわけではありません。
写真を利用する権利を持っている or 許諾されていれば、見たまま描いても大丈夫なのです。
絵の資料を自分で撮影する
まずオススメしたいスムーズな写真資料の用意の仕方はこちら。
・自社のグッズ・製品
・地元のスポット ・観光名所の写真
・ご自身で使っている楽器
…発注した絵のモチーフが、身近で撮影できる場合。
お客様ご自身で撮影して送っていただけると、著作権の面はクリアできます。
自分で撮る写真はピンポイントに描きたい部分を伝えられるので、イメージのズレもありません。
イラストの精度が上がったりメリットがいっぱいありますので、是非おためしください。
商用利用可の写真素材サイトで検索する
次におすすめの方法がこちら。
資料の写真をネットで検索する時に、商用利用可のサイトを使うと著作権のトラブルの可能性を下げることができます。
「写真素材 商用利用」
などのキーワードで、検索してみてくださいね。
もちろん、素材サイトの写真を使う際は、規約をしっかり読んでから、がポイントです。
写真素材の規約を確認します。
規約は写真の配布サイトごとに異なるので、イラストレーター側でも制作に取り掛かる前に確認させていただいてます。
- ふむふむ…、素材サイトだからって、どのように使ってもOKではないんだね…!
- でも、規約のページって、ちょっとむずかしいな~
たしかに、規約のページは聞きなれない言葉もあったり、むずかしい印象もありますよね。
でもこのとき、知らない言葉を調べながら、ゆっくり読んでみるのがオススメします。
写真素材を利用するたびに、規約を読み込んでいくことで、いろんな著作権のフレーズ・知識があたまの中に積み重なっていきます。
- へー!こういうのってNGなんだぁ!
- へー、肖像権ってこういう意味なんだぁ!
…なんて風に♪
きっと、ひとつひとつの用語・知識は、トラブルから大切な「絵」や「ものづくり」を守ってくれる強い味方になります。
- 身につけた知識は、財産。人生の「お守り」じゃよ
趣味の絵・練習なら、トレースしてもいい?
-
絵の練習に、写真を模写してトレーニングしたいんだ。それもダメかな?
- 趣味の絵をSNSに投稿してるの。トレースしても問題ない?

- そっかぁ…!趣味や練習でも、模写した絵を投稿するのはNGなんだね。
- スケッチブックに練習絵を描くだけならOKじゃよ♪
資料を渡すときは、写真の身元を明らかに
ネットで拾った画像、
自分で撮った写真、
知り合いが撮った写真、
商用利用可の素材写真…
ひとくちに資料写真と言っても、その出典元は色々。
これまでのお仕事でも、渡された身元不明の資料を手に困ってしまうことも結構ありました。
なので、イラストの写真を渡す時は…
- ネットの画像検索で見つけた写真だよ。参考程度にね。
- これは自分が撮った写真だよ。そのまま描いて大丈夫。
こんな風にひとこと添えていただけると、とってもスムーズです。
写真とイラストの著作権 まとめると…
・絵でも、写真を丸写し(模写)だと著作権侵害になる
・絵の仕事ではトレースにならないよう参考にしている
・自分で撮影したものや商用利用可の写真がおすすめ
イラストと写真資料の著作権のお話って、意外とわからないですよね。
私も、自分の仕事の分野外の知識は、知らない事だらけです。
だからこそ、著作権についてご理解いただいている時、ありがたい気持ちで一杯になります。
- わー!ご理解いただいてて、ありがとうございます…!
絵のお仕事をするなかでは、資料の著作権について確認・ご説明したりと、絵を描き始める前のやり取りに時間がかかる事も、結構ありました。
そこがOKなら絵を描くことに使える時間の割合が、一気に増えます。
その結果、イラストレーター側も同じ納期内に、もっとクオリティの高い絵を仕上げることができるのです。
お客様のメリットも、とても大きいかと思います。
- 読んでくださって、ありがとうございます。
- 絵が必要な方も、絵を描く方も♪
すべての人が、気持ちよく「ものづくり」ができますように。
著作権 おすすめの本
- 著作権について、くわしく知りたい方におすすめの本です。