
防犯ポスターづくりは、犯罪がテーマなぶん、気が重いものですよね。
ときに、つくり手自身もドヨーンとした気分になってしまうことが多いかと思います。
(わたしはそうでした。)
ただその分、アートならではの変化球を繰り出せると、やりがいを感じられる分野でもあります。
このコラムでは、防犯ポスターづくりで私が大切にしている考え方を紹介します。
それは、明るいアプローチで防犯活動のスイッチを押す事。
明るい町並みのビジョンは、行動のスイッチを入れる
- え? 防犯ポスターなのに、楽しいアプローチって?
そう思われるのは、ごもっともです。
ただ「効果的な防犯ポスターを作る」という点から見ると、実は理にかなった手法なのです。
なぜなら、明るくて楽しい未来を想像すると、人は行動のスイッチが入るから。
例えば、いい気分で道を歩いている時にいきなり「こんな罰が待ってるよ!」と脅されたり「こんな風になったら嫌でしょ」と言われても、いい気はしないものです。
わたしは、知らない人に、突然叱られたような気分になっちゃいます。
「イイネ!」だったり「あ、おもしろそう」という何かが見えてこそ、行動のきっかけが生まれます。
【2017年 堺市安全まちづくり会議・堺市のポスター】
そもそも、防犯ポスターのゴールは知ってもらうことではありません。
最終的に何か行動につなげることがゴールだと言えます。
だからこそ、明るい町を想像させて行動のスイッチを押す。
北風と太陽の話で例えると、まさに太陽のようなスタンスのポスターが効果的なのでは無いかと思います。
心を和ませるデザインは、犯罪を防ぐ
楽しいアプローチが効果的な理由の2つ目。
それは、人のこころを和ませて犯罪の種になるイライラを軽くできるから。
そもそも、犯罪は心がギスギスと荒れている時に起こります。
人は心がほんわかしたり和んでいる時、優しい気持ちの時に犯罪には走れません。
暴力的な気分になったり「ちょっとくらいイイや」と人を傷つけることへのハードルが下がるのは、決まってイライラしているときです。
でもこの事実以上にコワイのは、いつも笑顔でいられる人もそういないということ。
生まれつき、いい人も悪い人もいない。
ひとは、時に優しくて、時に悪いこともする、あやふやな生き物である。
これは、社会の問題を扱ったポスターを考える時に、ベースとしている考え方です。
いい人・悪い人。
被害者・犯罪者。
それはきっと、生まれつき決まっているわけではありません。
犯罪の種=イライラの感情は誰もが持っていて、日々コントロールしています。
通勤・通学‥眠くて今日は朝からテンションが低い。そんな日だってあります。
帰りの道では体の疲れがたまってたり、人間関係でココロがヘトヘトになってたりします。
つまり、まちを歩く人全員が、潜在的に軽犯罪の種になるイライラの心を持っています。
防犯ポスターはまちの景観の一部。
だからこそふと町で目にする防犯ポスターは、心を和ませる存在であってほしい。
イライラ・ムカムカ…
そんなマイナス状態の心を、1mmでもプラスの方向に持っていけるデザインであってほしいな、と思うのです。
実際、まちの景色がキレイだと犯罪発生率が下がるという現象もあります。
防犯ポスターデザインに使える「割れ窓理論」とは?
大切な場所だからこそ、行動できる。
私は、自分の家=「ほっとできる場所」に貼りたくないポスターは、自分が暮らす大切なまちにも、貼ってほしくないポスターなのでは?と感じています。
ほっとできる場所、暮らしていく場所、大切な場所…。
そうジンワリと感じられる場所だからこそ、人は「何かをしてみようか」と思えるのだとおもいます。
いい場所にしたい…と、素朴に思える居場所。
そう思えるからこそ、「ちょっとくらいいいや」という小さな犯罪の芽がしぼんでいく。
小さな犯罪の芽がなくなっていくと、重大な犯罪の発生も下がります。
心を和ますデザインは、長期的・心理学的な観点で犯罪を防ぐ力があると、信じています。
明るい防犯活動のアプローチ、例えば?
では具体的に、明るい未来を想像させる、防犯のアプローチとはどのようなものでしょうか。
・子供達に挨拶をし、見守る
・犬のお散歩かねて、町をパトロール
・玄関灯で明るい街にする
このように犯罪が起こりにくい町の空気を生み出ものです。
犯罪に気をつけるのでもなく、怯えるのでもなく、罰するのでもない。
心理学や社会学の知識、活動の効果や統計からそもそも犯罪が起こらないようにすること。
恐怖心や罰を避ける方向へアプローチするだけでは、犯罪の種、イライラやギスギスした心はなくなりません。
私の場合、この積極的な防犯活動をテーマにしたポスターが、犯罪心理を考える上で一番効果的だと考えています。
その理由は防犯ポスターが、まちの人のこころをデザインするものでもあるから。
防犯ポスターは、心をデザインする
正論を「こうするべき」とストレートに言うのは、簡単です。
でも、”正しい事”に必ずしも従うわけじゃないのが、人間の奥深くて、人間らしいところ。
生まれたときから100%よい心の人も、100%悪い心の人も、きっといません。
笑顔のときもあれば、機嫌が悪いときもあったり、人生の中でも、1日の中でも、心は常に揺らいでいます。
だからこそアート・デザインだからできるアプローチがきっとあるはず、と感じてやまないのです。
また、正論で指摘することは、時に暴力にもなるかもしれない…、
そんな可能性や危うさを、感じてしまいます。
こころに寄り添わず、唐突に正論を押し付けられると、どれだけ合理的でも受け入れられないのが人間というものかな、と思ってしまうのです。
だからまちを歩く人の心に、まずは「今日もお疲れ様です」と寄り添いたい。
ポスターは張り出された瞬間に、まちの情景の一部になります。
まちを歩く人の視界にうつり、ほんの1瞬でもまちに生きる人の心をデザインします。
だからこそ、ポスターをデザインする時に、こう考えるようにしています。
「防犯ポスターをデザインしているだけじゃない。
このポスターを見た人、心をデザインしているんだ。
笑顔の人や、ホッとした人が、ひとりでも多いまち、そんな町をデザインしているんだ。」
ちょっと大げさかもしれません。
でもこう思って防犯ポスターに取り組むと、不思議と、あたたかいやりがいを感じるのです。
本気で向き合ったポスターはキャンペーンで終わらない
また、制作してきたポスターが、当初の掲示期間が終わった後も、続けて貼っていただいているケースが何度もありました。
警察や市役所の方にお話を聞かせていただいたり、たまたま町を歩いてて見つけてビックリする事も。
何年も前のお仕事の防犯ポスターを見た時は、再開が嬉しくてその場を動けなくなります。
一過性の防犯キャンペーンで終わらなかったんだ…。
このポスターは、今もこの町の人の心に寄り添ってるんだ…
何をゴールにしてポスターと向き合うかで、デザインの効果や役割はきっと変わる。
そんなことをすこし感じています。
防犯ポスターは、安心で安全なまちを目指すもの。
防犯ポスター作りのコツのお話でした。
ポイントをまとめるとこちら。
①心を和ますデザインが犯罪を防ぐ
②明るい町のイメージは、行動のスイッチ
③防犯ポスターは、まちの人の心をデザインする
- 見ただけで笑顔になる。
そんな防犯ポスターが増えると、まちの景色や、町をあるく誰かのココロも、変わるのかも…と思います
罰することよりも、具体的で明るい提案を。
まちに暮らす人が、もっとまちの事を好きになれるような提案を。
防犯ポスター作りのヒントになりましたら嬉しいです。今回はこのあたりで♪